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「立ち話も何だね。まぁ掛けたまえよ」
「あ、はい。ありがとうございます……って、あれ?」
鷹揚な手振りで示され、応接用のソファーに腰掛けてから和戸村が首を捻る。
「いや、おかしくないですか?」
「早速だがワトソン君」
「誰ですかワトソンって。僕は和戸村です」
「依頼を受けた際に事件のあらましは聞いたが欠片が足りない」
「聞いてます? ……ぴーす?」
「この事件という謎解きの欠片だよ。つまりは情報、知識だ。如何に僕が名探偵と言えど無から推理を構築するのは難しい。名探偵とは決して神では無いのだからね」
「えーと……すみませんがもっと簡潔明瞭にお願いします」
和戸村の言葉に雨龍は大仰に肩を竦めてみせる。
「やれやれ。なるほど凡人には愚者を諭す如く接する必要があるのだったね。僕ともあろう者が失念していたよ。君にも理解出来る様に言葉を紡ぐとするならばだね、事件に関する調書を見せてほしいのだよ」
なら最初からそう言え。嫌味ったらしい。自意識過剰男。
心の中で悪態をつきつつ、和戸村は書類戸棚から調書を取り出してテーブルに置いた。
「どうぞ」
ついぶっきらぼうな口調になる。だがそんな和戸村を気に留めもせずに雨龍はパラパラと調書を捲った。
「ふむ……これまでで被害者は三名。第一被害者と第二被害者は娼婦だが、第三被害者は男性。だが三名とも同じ手口、か」
そう、一番直近の被害者は男性であった。男娼ではなく銀行員、それも四十代。
「ふむ。少なくとも犯人は娼婦に恨みを抱いて犯行に及んでる訳では無い事になる」
「そうですね。男性相手にその……行為に及ぶ性癖の持ち主であるというのが自分には理解出来ないのですが」
「男性相手『にも』と言うべきだろうが……果たして本当にそうだと思うかね?」
「え?」
雨龍の細い指先が調書の頁をトンと突いた。
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