その男、名探偵につき

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「いいかね、ワトソン君」 「いえ、和戸村(わとむら)ですが」 「被害者は確かに犯人の欲望の的にされた」  ダメだ、この人。聞いちゃいない。  和戸村はがっくりと項垂れて溜息をついた。 「聞いているのかね、ワトソン君?」 「和戸村です。聞いてますよ。雨龍さんこそ僕の話を」 「但し、だね」  言いかけた言葉を遮られ、和戸村がじとりと雨龍を睨むが雨龍は和戸村を見もせずに調書に目を落としたまま続ける。 「その場所が特殊だ」  そう。被害者はいずれも性器もしくは肛門には一切の行為の痕跡は無かった。だがその代わり。 「被害者はいずれも腹部、正確には内臓を凌辱されている」  これが最大の特徴。第一・第二被害者は女性、それも娼婦である。本来使われるべき場所(性器)は使われず、犯人の体液(精液)は腹の中から出てきた。第三被害者も同様であった。 「犯人の目的は凌辱である事には違いあるまい、が……どうも内臓に固執している様だ」 「だから男性も被害に?」 「男性も女性も中身(内臓)は変わらない、という事だろうね」 「え、ですが……そうなると犯人は内臓でその、行為をする事が目的……?」 「行為の為に存在する器官が使われていないのだから必然的にそう推測されるのではないかね?」 「いやまぁ……そう言われると……」 「警察の見解はどうなのかね?」 「その……第二被害者までは娼婦という存在に恨みもしくは嫌悪を抱いており、尚且つ女性に対する欲望を抱いて、その相反する葛藤ゆえの犯行と……」 「なるほど。だがそれだけでは犯人像を特定出来ず、そうこうしているうちに第三被害者が出た。しかも今度は男性な上に四十代という年齢。今までの見解が見事にひっくり返されたという訳だ」  雨龍が皮肉な笑みを浮かべる。悔しいがその通りなので何も言い返せず、上目遣いに睨むのがせいぜいだ。 「だがねワトソン君」 「和戸村(わとむら)です」 「これは幸いな事なのだよ。何故なら自らの見当違いを知る事が出来たのだからね」  無駄と分かりつつも訂正を申し入れたが、やはり聞き入れてもらえなかった。
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