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「さっきも言いましたけど、僕も警察官です」
「……はぁ?」
ゴソゴソと懐を探り、手帳を取り出してパカリと開いて見せる。
「倫敦警察署刑事課の和戸村と言います」
巡査は手帳につられた様にパカリと口を開けたまましばらく放心していたが、すぐに口を閉じると忙しなく和戸村と手帳と交互に視線を行き来させ始めた。
「ほ、本物……刑事……」
「本物ですよ、失礼な。そりゃまだ配属したてでそうは見えないかもしれませんけど」
巡査の顔色がどんどんと変わっていく。一気に赤くなったかと思えば今度は真っ青に。そして土気色になったかと思いきや……ぐるんと白目を剥いた。
「きゃぁああっ?!」
思わず和戸村が高い声で悲鳴を上げて尻餅をつく。
「おい、兄ちゃん! どう……ぅん?」
悲鳴を上げた和戸村に驚いて紫苑が覗き込む。
「何だァ? 何でムジナ野郎は失神してやがんだ?」
どうやら自分がやらかした事にショックを受けた様だ。
刑事という階級は実は存在しない。階級としては巡査となる。だが巡査の中でも序列階級はあり、派出所勤務の藤名は四等巡査、警察署刑事課勤務の和戸村は二等巡査。つまり和戸村の方が階級が上なのだ。
警察組織は元々軍組織であり、階級重視の縦社会である。つまり藤名は上官である和戸村に不敬な言動を取った、という事になるのだ。和戸村がその気になれば査問会出頭の上に処分という事も大いにありえ、減棒降格はもちろん懲戒免職もありえるのだ。
ムジナが気絶するのも仕方ない事であった。
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