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「あー、びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだぜ。女みたいな声出しやがって。それでも男かよ」
紫苑の呆れた声に和戸村が赤くなる。さすがに自分でも「きゃぁあああ!」なんてと恥ずかしくなったのだ。
「ムジナは放っとこうぜ。その方が都合いいだろ。なぁ先生?」
「うむ。僕の捜査を邪魔されては堪らないからね」
「あの、僕も捜査官なんですが。というか僕の捜査に雨龍探偵が協力する訳で……あ、ちょっと!」
張られたロープを軽々と跨ぐ雨龍を見て和戸村が慌てて立ち上がる。
「ワトソン君は無理せず潜ってきたまえよ」
「そうそう。こうやってさ」
ひょいとロープを持ち上げて潜る紫苑にムッとして意地でもロープを跨ごうとする和戸村。
「和戸、村、ですっ!」
和戸村とて決して背が低い訳でも脚が短い訳でもない。本人曰く。
だがそれでもロープと股下の間の空間に明確な差が出るのは。和戸村は細身のスラックスに包まれた雨龍の脚を恨めしげに見る。その目元が若干潤んでいるのは気のせいだと思いたい。いい大人の男が警察官ともあろう者がまさか脚の長さで涙目になどならないだろう。
「ふむ。被害者はここで殺されていたのだね?」
「そうです。その木板に布が敷かれていて、その上で……」
「兄ちゃん?」
「ワトソン君?」
途中で黙り込んだ和戸村を怪訝に思った二人が振り返ってみれば。
「何か手掛かりでも見つけたのかね、ワトソン君?」
和戸村が地面に膝をついて蹲っていた。
「和戸村で……すみません、現場を思い出したら……ぅぷっ!」
「はぁ?」
慌ててロープを潜って駆け出す和戸村に紫苑が呆れる。
「……おいおい、大丈夫かよ……あれでも刑事かね、まったく」
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