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「何か理由があるのかい?」
心底不思議そうに尋ねる和戸村に紫苑が呆れ顔になる。
「あのなぁ……金美通りは上級区域だろ?」
頷く和戸村に紫苑が溜息をつく。
「んな所に俺みたいなのがいたら目立つじゃねーか。先生やワトソンが下級区域にいる様なもんだ」
「和戸村」
和戸村は米架通りの視線を思い出す。米架通りは下級区域に近いとはいえ、まだ中級区域だ。それでも二人の出で立ちは目立ち、探る様な視線を向けられた。
もしもそれが下級区域ならば。和戸村がぶるりと身体を震わせた。
「で、でも……僕らと一緒なら」
「二人とも俺と同じ目で見られるぜ。そういうのは嫌だろ?」
「そんな……」
「ま、別に俺が行かなきゃなんねぇ理由も無ぇしさ。俺は俺で別口で情報を探すって事で」
「別口?」
「あぁ」
紫苑がニヤッと不敵な笑みを見せる。
「殺されたうちの二人は花売娘だった。蛇の道は蛇ってな。裏には裏の社会があんだよ。んで俺は裏側の人間ってこった」
「それって、危険なんじゃ……」
「そこは上手くやるさ」
「子供が危ない真似をするのを見逃せって言うのか?!」
「子供扱いすんじゃねぇって言ったろうが」
紫苑が眦を吊り上げる。
「こんな小さな子に危険な真似はさせられない!」
「小さいって言うな! 俺は子供じゃねぇ!」
「僕からしたらまだまだ子供だよ! 子供を守るのが大人の義務であり、市民を守るのが警察官である僕の仕事だ!」
「この……世間知らずの甘ちゃんが!」
「何だって!」
「テメェのその綺麗事はなぁ! 中級区域までは通用しても下級区域や、ましてや最下級区域じゃ通じねーんだよ!」
火を吐く様な紫苑の声に、和戸村が息を呑んだ。
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