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「最下級区域じゃなぁ、大人が子供を殺す事なんか日常茶飯事なんだよ。生まれたばっかの赤ん坊を母親が殺す事だってあるし、たまたま目の前を横切ったからってだけで私刑されて殺される事だってあるんだ」
紫苑の言葉に和戸村は何も言い返せない。
「下級区域だってそうだ。俺達みたいなのがいる事が何よりの証拠じゃねーか。米架以外の中級区域や上級区域に俺達みたいなのがいるか? 見た事あるか?」
「……!」
無い。和戸村は米架通りに来て、初めて見た。知った。目の前にいる紫苑の様に、薄汚れた格好をした子供など。親のいない子供など。和戸村は知らない。知らなかった。
「俺達は世間の鼻摘み者なんだよ。生まれてすぐに捨てられて、生きるか死ぬかで、何をしてでも生き延びなきゃなんなくて、そのせいで周りから白い目で見られて。大人になっても雇ってくれる所なんか無ぇから仕事にも就けねぇ。せいぜいが肥え汲みだの屠畜だのって誰もやらねぇ様な仕事をそれこそ子供の駄賃みたいな賃金でようやくやらせてもらって日銭稼いでんだ。そんな俺達を世間の奴らは馬鹿にするんだ」
紫苑の眼がすっと細まる。
「だからよ……そんなのと一緒にいたら……同じ目で見られちまうんだよ……」
途端に弱くなる声に和戸村の胸が締めつけられる。
「俺達は俺達の世界でしか生きらんねぇんだ。今はそりゃ先生に雇ってもらえて、少しくらいはマトモになっちゃいるけどよ。それだって世間から見りゃ下の下なんだよ」
「紫苑君、辻馬車を拾ってきたまえ」
空気をぶち壊す雨龍に和戸村はガクッと膝から崩れ落ちそうになった。
「ちょ、雨龍探偵!」
「ここから金美通りまでは少しばかり遠い。なるべく上等なのを頼むよ」
「あ、うん。わかった」
気を削がれたのか、どこか茫洋としたままの紫苑が路地裏から走り去る。和戸村は行き場の無い気持ちをどこにぶつけていいものかとモヤモヤしたモノを抱えるのだった。
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