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「何てまぁ酷ぇ有様だ」
薄い霧が流れる事件現場はベテランの刑事ですら眉を顰める光景だった。
「先生よぉ、見立てはどんなモンかね」
しゃがみ込んでいた白衣の男性が「よっこらしょ」と立ち上がる。
「あいたたた……」
「生憎と担架は一つしか持ってきてないんだ。ぎっくり腰にでもなったら遺体と添い寝してもらわにゃあならんぜ」
「美人だが臓物垂れ流した遺体さんとじゃあ色気もへったくれも無いねぇ」
ベテラン刑事の軽口に老齢の男性も腰を擦りながら返す。
「死因は失血死。見た所、死亡推定時刻は昨夜。おそらくは零時を回っちゃいなかろうよ」
「花売娘か」
現場に転がる花籠を見て刑事が鼻を鳴らす。
「世の中の事件の大半は金のもつれか痴情のもつれと相場が決まってるモンだが……こりゃあ」
「少なくとも犯人はマトモな頭はしちゃいなかろうよ」
ベテラン刑事がガシガシと頭を掻く。
「娼婦を抱いて臓物にぶちまけるなんてなぁ」
老齢の検死医の言葉にベテラン刑事は溜息をついた。
──こりゃあ、とんでもない事になりそうだ
と。
「おい、新入り……新入り?」
付いて来ているはずの新人刑事の返事が無い。怪訝そうに振り向いた刑事の目に、真っ青になった顔が映った。
「……現場荒らしたらお前さんを死体にするぞ」
低くドスの効いた声に更に土気色になった新人刑事が踵を返して駆け出した。
「何だい、新人かい?」
「昨日配属になったばっかのヒヨっ子だ」
「道理でねぇ。遺体さんよりも顔色が悪い」
けたけたと笑う検死医に恨めしげな視線をやりつつ、ベテラン刑事は再び溜息をついた。
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