その男、名探偵につき

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 ベテラン刑事の勘は当たった。同じ手口の事件が再び起こったのだ。 「……やれやれ。今回ばかりは勘が外れてほしかったんだがな」 「嫌な予感ほど当たるモノだって言うからねぇ」  刑事のボヤきを拾った検死医が肩を竦める。 「まるきり同じ手口だね。しかし何だって被害者は抵抗しなかったんだろうねぇ?」  検死医が遺体の手を取る。綺麗に手入れをされた爪。 「どうも犯行直後だったらしく、発見時には息があった様だ。生きて意識がありゃあ抵抗するモンだがねぇ」  生存本能で抵抗するのが当然。それが無かったという事は。 「薬……か?」 「その可能性が高いねぇ」  検死医が頷くのを見て刑事が叫ぶ。 「おい! 急いで遺体(ホトケ)を検死に回せ!」 「まだ残ってるといいがねぇ」  担架で運ばれる遺体を追って検死医が去るのを刑事は祈る様な気持ちで見送った。 「……んで、お前さんはまだ慣れねぇか」  視線を180°回し、ベテラン刑事は青い顔の新人刑事に呆れた声を投げる。 「すみま……ぅぷっ!」 「馬鹿野郎! ここで吐くな!」  よろよろと現場から離れる新人刑事に更に呆れた視線を投げ、ベテラン刑事は苛つく気持ちを抑えきれずにガリガリと頭を掻いた。 「まったく……使い物になりゃしねぇ」  新人の教育は先輩の仕事。そうは分かっていても余りの不甲斐無さに苛つく。 「いちいち死体見て青くなってたら刑事なんざ務まらねぇっての」  猟奇的ではあるが、遺体自体の損傷は少ない。愚連隊や暴力団の抗争、私刑(リンチ)での死体の方がよっぽど見れたモノではない。 「あの新入りと、この事件と、どっちが厄介……どっちもか」  二重の厄介にベテラン刑事は深く深く溜息をついた。
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