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聞き覚えはあるが随分落ち着いた声が耳を掠め、ゆっくり立ち上がった。視線を上げるとテレビで見たままの巧真の姿だった。葬儀では着せられていたスーツが今は眩しいほどで、髪も綺麗に整え本当に別人のように立派な風貌だった。
手にはこの子にだろうか、玩具メーカーの紙袋を持っていた。
「やっと会えた。ずっと謝りたくて……あの時は…本当にすいませんでした!!」
拳を強く握りしめ深々と頭を下げた。
「これ……」
昔吸っていた煙草が差し出されたが首を横に振った。
「やめた」
そうですか、とその手を引いた。
「…あの…何か私に出来ることはないですか?」
既に自分の子だと気付いているようだった。
「いらない」
俺の返事に落胆したように視線が落ちた。
「何かさせてください。お返しがしたいんです。」
「それは僕のだよね?」
隣にいた子がおもちゃを指差し不安そうに言った。
「もちろん」
巧真の返事にわーい!と無邪気にその場を跳ね回った。
「利口なのはお前似だな」
泥で汚れた手を伸ばしその煙草を受け取った。
「支援もお返しも懺悔も何も必要ない。ただ」
「ただ?」
巧真の瞳に明かりが灯った。
「その気持ち悪い敬語をやめろ」
「あっ…」
緊張で無意識だったのか口に手をあてた。
結局、あれから進学はしなかったと聞いた。
どんな苦難を乗り越えて今ここに立っているのか。
全て俺の為だとするなら……。
「ただ、また会いに来てくれないか?」
巧真は目を見開いた。
「俺と、この子に。」
「もちろんっ!!!」
顔がパアッと輝き、そしてまだ幼い我が子の前に座ると強く抱き締めた。
「ありがとう」
その顔は通夜で俺が頷いた時と同じ顔だった。
絶望したあの日、断らなかったのは小さなお前に希望の光を感じたからだと今なら思える。
案の定、生かされただけでなく心身満たされていた。
そしてそれは間違いじゃなかったと
血縁のお前を愛したのは必然だったと
今は儚いこの子が教えてくれた。
何が正で何が邪か、頭で判断するのは簡単だ。
誰の目にどんな風に映ろうともこれが俺には最高の幸せのかたちで、紛れもない真実。
これから様々な逆風が待ち受けていたとしても、それだけは誰にも否定出来ない。
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