真実

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それから五年後… 「田中さーん、宅急便ですよー!」 俺はクワを持つ手を休め泥だらけの手袋を外した。 荷物を受け取り、腕で汗を拭うと古家の土間に座る。水を口をつけ、ついていたテレビで繰り返し流れる聞き慣れたCMに目を細めた。 壮ホールディングス。 今や誰もが一度は耳にした事がある最優良企業。 特集でまだ若すぎる程の社長はインタビューでこう答えていた。 「僅か23歳にして長者番付にのるという偉業を成し遂げられましたがここまでのぼりつめた秘訣はなんですか?社名の由来は?」 「私を育ててくれた人の名前です。彼への恩返しのつもりでここまで走り続けてきました。」 「彼は何かおっしゃっていましたか?」 「…いいえ。まだお礼すら言えていません」 無理もない。 名前も変えたし居場所すら知らないはずだ。 「パパー!!」 その時、細い砂利道から黄色いバッグを下げ一目散に走ってくる男の子を抱き上げた。 フワッと笑う顔は瓜二つだ。 結局、形は違えど俺は巧真を愛していた。 それは妊娠を知った時、中絶は微塵も脳裏を過ぎることなく、再び巧真に生かされたとすら思えたからだ。 今落ち着いているここは自然に囲まれ空気の澄んだ美しい土地でほぼ自給自足で暮らしている。 もちろん、妊娠とともに煙草もやめた。 日々成長するこの子を見る度に面影を感じながら彼の幸せを願う日々を送っていた。 「また先生に送ってもらったのか?迎えに行くまで待ってろといつも言ってるだろ」 「うぅん、今日はあの人に送ってもらった!」 指差した方を見るとテレビで、しかも中でうつっていたのは…。 ……まさかそんなはずはない。 こんな山奥が分かるはずがない。 ふと見ると小さな手には朝から見当たらなかった携帯が。 「先生と一緒に僕もしもししたの!パパが会いたがってるよって!」 頭が真っ白になった。 まさか……?! もちろん微塵もそんな素振りは見せたことは無い。それにそもそもそんな電話、悪戯だと大企業が間に受けるわけない。 その時、ジャリッという音とともに子の向こう側に見えたのはあきらかに場違いな高級そうな革靴だった。 「優しいのは壮一おじさん似だね」
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