第3話

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第3話

 片岡紗希。憧れていた神戸の街へ五年前に田舎から出てきて、山の手にある少しは名の知れた女子大に入った。学生生活を大好きな街でエンジョイしながら、昨年卒業と同時にそのまま神戸の小さな会社に入社した。もちろん一人住まいである。  それなのに、一年も経たずに会社が倒産するなんて――それは昨年末出勤した時に、会社の入口にあった張り紙で初めて知ったのだ。その時のショックを紗希は今でも忘れられない。  会社がそんなことになっているとは露知らず、毎日のほほんと仕事をしていた自身の迂闊さにも腹が立った。  今から考えれば会社に変な電話が掛かってきたり、社長の朝礼での訓示が支離滅裂であったりなど、その兆候は確かにあったのだ。  それに気付かないのでは後の祭りとしか言いようがない。但し、もし気付いていたとしてもそれでいったい何ができたのかと問われれば、どうにも答えようのないことではあるのだけれど。  そんな思いと状況を抱えて再就職活動を始めて三カ月。両手の指では足りない程の求人にも応募してきた。中には採用寸前までいきながら、何がいけなかったのか分からないままに不採用となってしまった会社もある。  結局、本人の努力の甲斐もなく、未だに決めることができずにいた。景気が悪いせいといってしまえばそれまでなのだが。  不採用となる度に沙希は、自身の全人格を否定されたような気がして何とも言えないやるせない気持ちになってしまった。努力をしても報われない事がこれほど辛い事なのかと。まるで精神を病んでしまったかのようなうつ状態になったこともある。  そんな中、少し――いや大いに焦りを感じながら、昨日ハローワーク神戸で『オフィス ドッグス』の求人票を見つけて、何故か興味を持ってしまった。  いったい何をする会社なのか仕事の内容も良く分からないけれど、何か面白そうと思って紹介状を出してもらったのだ。
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