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「そ、そんなこと……」
「もうすぐ死んじゃうんでしょ……私?」
「……死ぬって、エリが?」
「聞いちゃったんだ、この前先生と看護士さんが話してたの……きっと春を迎えられないだろうって」
「はぁ……」
「だから……だから最後くらい好きなもの食べさせてあげようって……! だから、だから……私……!!」
「あのね、エリ。食べ過ぎで死ぬって聞いたことないんだけど」
「そう、食べ過ぎで私死んじゃうって……え?」
「エリは、ただの、食べ過ぎ。明日には退院予定だよ」
「ホントに?」
「うん。まぁその食いっぷりなら入院は延びるかもしれないけど」
「食べ過ぎ……そっか。そっかぁ!」
エリは、ケーキが焼き上がった時のように顔をほころばせた。そして手にしていたパンを瞬く間に平らげて笑った。
「なんだ、勘違いかぁ。じゃあ、これからもいっぱい食べられる?」
「うん。たくさんね」
「良かった! 安心したらお腹すいてきた!」
「え、今食べたばかりなのに?」
「あれはあれ。あっちに美味しそうなお菓子のお店があったんだ。行ってみよう!」
「うん」
そう言って、弾むように駆け出す彼女の背中を、僕は追いかける。
そうして、君はこれからも、美味しく食べ続けるんだろう。
やがて訪れる春も、夏も、秋も、冬も、そして……また次の春も、君はたくさん美味しいものを食べて、幸せな気持ちで満たされるんだろう。
君が幸せに食べるから、僕も幸せを感じることができた。
だから、これからもその姿を傍で見守るよ。
いつか、そう遠くない未来に、お別れの時が来ても。
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