いつかの春に続く冬

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「あーあ。結局言えなかったな」  スマホを手に、少女はため息をついた。  そのケースには愛らしい女の子──彼女が描いた自作の絵だ。 「大体どうかしていたのよ、私ったら。無謀にもほどがある」  自分なんて好きじゃない。むしろ積極的に嫌いだ。  だから、真っ新な人間関係しかないネットでは精一杯理想の自分を演じている。ちゃんと理解しているはずだった。  その『自分』を好いてくれた人に『私』なんかを晒せるわけがない。──わかりきっていたのに。  それだけ、会いたかったのだ。彼に。  だからこそ土壇場で、誰よりも怖くなってしまった。 「ホットドッグ、おごろうと思ったんだけどな。渡せたからまだ、よかったけど。いくらおいしくても、二つはとても食べきれないもの」  彼のことは一目でわかった。あの特徴的な帽子。  心臓がどきりと跳ねた瞬間、反射的にスマホを鞄にねじ込んでいた。『自分』だって見つけてもらえる、唯一の目印を。
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