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鐘の音
「お前、よく食うなあ。」
「そりゃあそうよ。あたしのお腹には、赤ちゃんがいるんだもん。
これは赤ちゃんのぶん。」
「いつだよ。」
「ええと、ね。予定は…」
空を見上げて指折り数える彼女の顔は幼い。
雪が降っているのに手袋も嵌めていない指の先は、
爪のマニキュアと同じくらい赤みを帯びている。
「一週間後。でもね、私初めてだから、延びるかもって、先生が」
ケチャップの付いた指を舐め、彼女は腹に手を当てる。
「楽しみか?」
「うん!」
冬の弱い陽光にさえ、彼女の笑顔はキラキラ輝いた。
「男の子なんだって。どんな子かなあ。
早く会いたい。音楽の好きな子だといいな。木登り、するかなあ。」
腹の子の将来を嬉しそうに妄想する彼女に、
きゅっと胸が締め付けられる。
「よせよ」
声が大きくなった。
彼女の顔から笑みが消えたように見えたのは、
雲が出て日が陰ったからだ、と一生懸命思おうとする。
「長い間一緒に居て、食い物を分け合って、
腹蹴られて、でも、一緒にいられないんだぞ。
会ったとたんにサヨナラだ。」
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