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V。 その名前を彼の研究所が建つ山の、麓の村に住む人々が聞いたら、即座に家にこもってドアにはカギをかけ、窓にはカーテンをひくに違いない。 山の中にある研究所の、何階のどのあたりにあるかもわからない部屋に、Vはいる。 正確には研究所全体がVのすみかなのだが、彼はたいてい部屋で過ごしており、寝るのもほとんどこの部屋だ。 寝室も全くと言っていい程使わない。 この部屋は正式に言うと「研究室」。 Vが、さまざまな研究を行う場所。 そして今、その研究室にノックの音。 しかしVは気づく様子もなく、ぼさぼさの髪を片手でいじりながら熱心に机に向かっている。 「博士、いいですか?」 まるで鈴を鳴らしたかのように美しくよく響く声。 助手のノアだ。 ぼさぼさ髪に足元まである白衣姿のVとは正反対の美しい外見で、とても優秀。 常に最適の行動をおこせるだけの行動力と判断力をもっている。 が、唯一Vの前だと判断力がにぶるのは、おそらくつかみどころがなくあっけらかんとしたVの性格のためだろう。 そのノアが涼やかな風鈴の音のような声を部屋の中にかけても、Vはときどきあくびをしているもののかなりの集中力で机と格闘している。 ノックの音が激しくなるが、Vの都合のいい耳には聞こえない。 「い・い・で・す・か!」 しびれをきらしたノアが大声で怒鳴った。 やっと気づいたVは 「鍵ならあいてるよぉ~。」 とのんきな声で言った。 「失礼します。」 ドアが開いて、ノアが入ってきた。
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