第40話(4)

8/41
前へ
/1342ページ
次へ
 秦がいる部屋でも、加藤と連絡を取り合っていたと聞かされた和彦は、寒気のようなものを感じた。中嶋としては、隠し事はないという証明のつもりもあったのだろうが、とにかく秦にとっては耐え難い状況となったはずだ。  結果が、昨夜の出来事だ。  恋愛の機微には聡いはずの元ホストにしては、迂闊すぎると言わざるをえない。あくまで、中嶋の話を聞いた限りでは。だが一方で、同じ元ホストである秦は、これまでの経験で培ったはずの手管を発揮できず、無邪気な悪女に翻弄されているようだ。  中嶋と秦の二人は、享楽的でスマートな関係を築いているとばかり思っていただけに、和彦としては困惑するしかないのだが、第三者としてはこう言うしかなかった。 「問題は二人で解決してくれ。――他人に迷惑をかけない形で。どちらにしてもぼくは、しばらく個人的な問題でバタバタするから、愚痴も聞いてやれないからな」  残念ですねと、本当にそう思っているのか疑わしい言葉を秦が洩らす。  いよいよ時間が気になってきた和彦は、話を切り上げて電話を切ろうとする。すると秦が囁きかけてきた。 『――本当にいいんですか?』  なんのことかと問うまでもない。ほんの一瞬の逡巡のあと、和彦は短く応じた。 「いい」  電話を切ったあとで、一気に心臓の鼓動が速くなる。気がつけば、携帯電話を握った手も冷たくなっていた。秦の最後の囁きは、和彦の心の深い部分を抉ったのだ。     
/1342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8856人が本棚に入れています
本棚に追加