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曖昧な返事をした和彦を促して、吾川が歩き始める。
「ホテル暮らしで不安に思われたかもしれませんが、決して本部が危険だったというわけではありません。ただ、慌しくしていたのは確かですから、その様子を先生にあまりお見せしたくないということで、ホテルに部屋をお取りしました。本来であれば、長嶺組にお預けするのが筋なのかもしれませんが、もし万が一、先生がまた襲撃されるようなことになりましたら、少々問題が複雑になりますので――……」
裏口から入ってエレベーターホールに向かいながらの吾川の説明に、和彦は想像力を働かせる。
長嶺組が和彦の身柄を預かったあと、また和彦が襲撃を受け、仮に怪我でもしたら、総和会という組織は、長嶺組の責任を問わないわけにはいかないだろう。一方で、何事もなかったとき、長嶺組は総和会を問い詰める口実を得ることになる。〈オンナ〉の身一つ守ることができないのか、と。
立てようと思えば、波風などいくらでも立てられるということだ。長嶺の男たちにそのつもりはないとしても、周囲にいる人間たちも同じとは限らない。
疲労感以外のものがさらに肩にのしかかった気がして、無意識のうちにため息をついた和彦は、次の瞬間には我に返り、口元に手をやる。
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