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「男受けもいいですよ」
秦から意味ありげな流し目を寄越され、和彦は返事に詰まる。当て擦り――ではなさそうだと判断し、恐る恐る確認してみた。
「やっぱり、心当たりでもあるんじゃないか?」
「わたしの口からはなんとも。今度、先生から中嶋に聞いてみてください」
「……なんだか面倒なことに巻き込まれそうな予感がするから、遠慮しておく」
「先生は慎重だ」
秦が顔を綻ばせ、少なくともその姿からは、中嶋との関係を深刻に悩んでいる様子はうかがえない。どうやら和彦が心配する事態ではないようだ。
「まあ、ぼくなんかが心配しなくても、君ら二人のほうがよほど、修羅場には慣れているか」
和彦の言葉に、秦が芝居がかった仕種であごに手をやり、深刻な表情を見せる。
「他の人ならともかく、先生にそう言われると、複雑な気持ちになりますね……」
「悪かったよっ。余計なことを言って」
失礼なことに秦は声を上げて笑い、自覚はあるだけに怒るに怒れない和彦は立ち上がると、雑貨で埋まっている棚へと歩み寄る。気晴らしのためにここを訪れたので、何か買って帰るつもりだ。
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