第35話(2)

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 不機嫌に応じた声に、嫌になるほど聞き覚えがあった。和彦が棚から飛び出すと、スーツ姿の鷹津が、カウンター越しに秦と向き合っている。  鷹津を一目見てまず感じたのは、なんとなく荒んだ容貌になったなということだった。ひげはきちんと剃ってあるし、髪はオールバックに整えてあるものの、いくぶん頬のラインが鋭くなり、目元の辺りに険が宿っている。それでなくても彫りの深い顔立ちをしているだけに、尋常ではない迫力が漂っている。  鷹津はこちらを見るなり、秦の存在など忘れたように大股で歩み寄ってくる。一体何事かと、和彦がその場に立ち尽くしたまま動けないでいると、いきなり腕を掴まれた。 「行くぞ」  掴まれた腕を乱暴に引っ張られ、和彦はハッとする。 「えっ? あっ、行くって、どこに……」 「いいから、ついて来い」  有無を言わせず引きずられ、和彦は助けを求めて秦を見遣る。しかし、厄介な事態に巻き込まれたくはないのか、それとも何か意図があるのか、艶やかな笑顔で見送られた。  狭いエレベーターに押し込められた和彦は、鷹津の横顔をうかがい見る。 「一体どうしたんだ? あんたは今は、ぼくに近づかないほうがいいってわかってるだろ。しかも、こんな明るいうちに」     
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