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ここで和彦は、大事なことを思い出す。さすがに店まではついてこなかったが、ビルの前では護衛の男たちが待機していたはずなのだ。鷹津は総和会によって顔も正体も把握されており、ビルの中に入ることを許すとは思えない。
嫌な予感がして、ブルリと身震いをする。掴んだ腕からそれが伝わったらしく、鷹津がちらりと和彦を一瞥した。
「俺が、俺のオンナに会いに来て、何が悪い」
クリニックの仮眠室でのやり取りが蘇り、頬が熱くなる。
「……その理屈が、総和会に通じるはずがないだろ」
「連中の理屈なんてどうでもいい。俺とお前の仲の話だ。誰も――総和会も長嶺組も関係ない」
すぐにエレベーターが一階に到着し、鷹津は警戒することなく外に出る。和彦はその豪胆さに怯んだが、腕を引かれて仕方なく従う。
エントランスからビルの外をうかがうが、やはり護衛の姿はなかった。和彦は、鷹津が何をやったのかすぐに察した。
「あんた、またやったんだな……」
ビルを出て、辺りを見回してから和彦が詰る口調で言うと、鷹津は軽く鼻を鳴らした。肩を小突かれ、一緒に歩き出す。
「俺は刑事だぞ。いかにも筋者な男たちがうろついていたら、職質をかけるのが仕事だ。だけど今日の俺は非番で、仕方なく、他の奴に任せた」
「……突っ立っていただけなら、なんの罪にも問えないだろ」
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