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「お前の護衛たちは、こんなところで何をしていた、と聞かれても、答えられやしない。まさか、長嶺会長のオンナを待っていると、バカ正直に答えるわけにはいかないからな。迂闊に適当な誤魔化しを口にしたら、暴力団担当の刑事たちは、それこそ重箱の隅を突くようにして矛盾を探り当てる。それを避けるためには黙秘するしかない。事態はますます、ややこしくなるな」
鷹津がこの手を使うのは、これが初めてではなかった。前にも一度、和彦と護衛を引き離すために、同じことをしている。
しかし、そのときと今では、自分たちの関係はずいぶん変化した。和彦は歩きながら横目で鷹津をうかがう。あのとき、和彦は本当に鷹津が嫌いで、不気味だとすら思っていた。
それが今では――。
風で乱れた髪を掻き上げて、和彦は背後を振り返る。鷹津は、和彦が逃げ出すとでも思ったのか、再び腕を掴んできた。背後には、護衛の男たちの姿は見えない。鷹津が言ったとおり、黙秘を貫いているのだとしたら、そう易々と解放はされないだろう。
「――……これから、どうするんだ?」
今後の展開を想像して、意識しないまま声は暗く沈む。一方、大それた行動に出た当事者は、珍しく冗談めかして言った。
「可愛いオンナとデートするに決まってるだろ」
やはり鷹津の様子がおかしいと思いながらも、逃げ出すという手段を和彦は取れない。すでに総和会にケンカを売った状態にある鷹津を一人にするのは、あらゆる意味で危険だ。
「……ぼくは、金がかかるからな」
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