第35話(2)

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 鷹津という男に何かが起こったのは確かだが、和彦には推測することすらできない。もどかしいし、水族館に引っ張り込まれるまでは、腹立たしさすら覚えていたが、それはもう消え失せた。  鷹津と〈デート〉をしているという現実に、気恥ずかしさのほうが上回ったのだ。 「なあ、どうして水族館なんだ」 「遊園地のほうがよかったか?」  和彦は動かしていた爪先をピタリと止めて、思わず隣を見る。鷹津は、到底楽しんでいるとは思えない顔で、水槽を眺めていた。 「そうだと言ったら、連れて行ってくれたのか?」 「俺と一緒で楽しめるならな」 「……今は、楽しんでいるように見えるか?」  横目で和彦を一瞥した鷹津が、ようやく唇を緩める。 「あまり深く考えるな。晩メシまでの時間潰しだ」 「服を買ってくれたのも?」 「俺と一緒にいるのに、総和会の匂いが染み付いているものを身につけているのが、気に食わなかったんだ」  そのせいで、着替えた服はコインロッカーに押し込まれてしまった。  鷹津の言葉に、和彦は表情を曇らせる。 「なあ……、あんた本当に――」  これからどうするつもりかと言いかけたが、言葉は口中で消える。代わりに、別の質問をぶつけていた。 「水族館を出たら、次はどこに行くんだ」 「希望はあるか?」 「あんたなりのデートプランがあるんじゃないのか」 「……ねーよ、そんなもの」     
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