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「今は登らないのか?」
「そんな暇はない。もう何年も前に道具も全部処分したしな。今はせいぜい、登山地図を眺めるぐらいだ」
和彦は、殺風景な鷹津の部屋の光景を思い出し、そこで一人、地図を眺める男の姿を想像して、少しだけ胸が苦しくなった。
「けっこう健全な趣味を持ってたんだな……。それがどうして、悪徳刑事になんてなったんだ」
「余計なお世話だ。お前のほうこそ、どうして、ってやつだろ」
確かに、と和彦は苦笑を洩らす。水族館の出口へと向かいながら、和彦は足元に視線を落とす。
「足、痛い。今日は歩きすぎた」
「総和会も長嶺組も、お前をちやほやして、歩かせやしないんだろ。まだそんなに歩いてないぞ」
「靴がまだ、足に馴染んでないんだ」
唐突に鷹津が黙り込み、和彦もあえて話しかけなかった。鷹津が再び口を開いたのは、水族館を出てからだった。
「――……少し早いが、晩メシを食いに行くぞ」
それからどうするかという説明を、あえて鷹津が呑み込んだ気がした。察した和彦は、心臓の鼓動がわずかに速くなるのを感じながら、ああ、と囁くような声音で応じた。
日が落ち始めた頃には、二人はホテルの部屋に入っていた。
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