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和彦は、着替えを入れた袋を手にしたまま、室内を見回す。落ち着いたブラウン系でまとめられた部屋は、単なるダブルルームではないようだ。宿泊料はけっこうするだろう。
当日に訪れて、シティホテルで部屋を取れるのだろうかと心配したのだが、鷹津は予約を入れていた。つまり、今日の行動は衝動的なものではなく、しっかり計画を立てていたのだ。
ここまで来て、鷹津の不可解な行動を問い詰めても、おそらく徒労感しか得られないだろう。鷹津はきっと教えてくれないし、強引に聞き出す腕っ節も勇気も、和彦にはない。
総和会も長嶺組も大騒ぎになっているだろうなと、心の中でそっと嘆息する。
クローゼットに袋を入れ、買ってもらったコートだけはハンガーにかけてから、さっそく靴からスリッパへと履き替える。
「足はどうだ?」
ベッドに腰掛けた和彦の前に屈み込み、鷹津が問いかけてくる。
「大したことない。靴擦れというほどのものでもないし、本当に歩き過ぎただけだ」
「あの程度で歩き過ぎたと言える感覚が、俺にはわからん」
「いいよ、わからなくて。明日は車での移動中心にして――」
和彦はふいに言葉を切り、鷹津が顔を上げる。
明日は一体どうするのかと問いたかったが、代わりに和彦は、鷹津の頬にてのひらを押し当てた。
「あんたさっき、きちんと食事をとっていたな。少し痩せたように見えるから、気になってたんだ」
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