8829人が本棚に入れています
本棚に追加
「医者としてか?」
「……なんと答えたら満足なんだ」
鷹津はいきなり立ち上がり、和彦に向けて片手を差し出す。
「シャワーを浴びてこい」
ピクリと肩を揺らした和彦は、自分の顔が赤くなっていないことを願いながら、差し出された手を掴んで立った。
レストランでアルコールは一切飲んでいないのだが、頭が少しふわふわしている。しっかり歩いているつもりなのに、足元が覚束ない。鷹津に異変を悟られていないだろうかと気にかけながら、半ば逃げるようにバスルームに入ると、洗面台の鏡から不自然に視線を逸らして服を脱いだ。
温めの湯を仰向けた顔に浴びながら、和彦は目を閉じた。
気を抜くとすぐに、総和会と長嶺組の動向を考えてしまう。せめて、鷹津の隙をついて連絡を入れるべきなのだと頭ではわかっているが、結果として鷹津の身柄を差し出すことに繋がる。
今度ばかりは、鷹津に手を出すなという和彦の要求は、一蹴されるだろう。それどころか、鷹津と行動を共にしたうえに、庇う発言をすることで、二つの組織――というより、長嶺の男たちの不興を買うかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!