8546人が本棚に入れています
本棚に追加
/1329ページ
そう言って鷹津が立ち上がり、テーブルへと歩み寄る。和彦は再び寝返りを打って仰向けとなったが、その拍子に内奥で蠢く感触があってドキリとする。腰から下にはシーツがかかっているが、見なくても、自分の下肢がどういう状態になっているのかわかった。
ベッドに戻ってきた鷹津は、ワインが注がれたグラスを持っていた。
「……あんたにしては気が利いている」
和彦の言葉に、鷹津は鼻先で笑った。
「俺はいつでも、お前に甲斐甲斐しく尽くしているだろ」
「そうだったか?」
片手を掴んで鷹津に引っ張り起こしてもらうと、受け取ったグラスに口をつける。本当はただの水のほうがありがたかったのだが、せっかく鷹津が頼んでくれたのだから文句はなかった。一気に飲み干すと、鷹津がニヤニヤと笑う。
「ボトルでラッパ飲みしそうな勢いだな」
「だから、喉が渇いてるんだ」
鷹津はワイン瓶ごと持ってきて、恭しい動作でグラスに新たにワインを注いでくれた。
ようやく喉の渇きが治まって大きく息を吐き出すと、鷹津にグラスを取り上げられてベッドに押し倒される。腰を覆っていたシーツを剥ぎ取られ、両足の間に腰が割り込まされた。
見つめ合いながら和彦は、鷹津の頬にてのひらを押し当てる。いまさらながら、まどろむ前に鷹津と交わしたやり取りが、切迫感を伴って和彦の胸を苦しくさせる。
「――……あれは、あんたなりの冗談なのか?」
「あれ?」
「俺と一緒に逃げるか、って……」
最初のコメントを投稿しよう!