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「えっ」
和彦は声を洩らす。御堂の家で、夜中、自分に水を飲ませてくれた青年だった。今は、いかにも着慣れていないスーツ姿ではあるが、スッと伸びた背筋からうなじのラインにも、記憶を刺激される。間違いなかった。
「どうして、君がここに――」
青年の側まで歩み寄り、声をかける。間近で見て改めて、やはり若いなと思う。そして、前にもどこかで会ったことがあるとも。
青年が口を開きかけたとき、突然、声が上がった。
「おい、玲、こっちに来い」
その声に反応して、青年が面倒臭そうに唇をへの字に曲げる。
「……でかい声出すなよ、恥ずかしいな」
ぼそりと小声で応じて青年が歩き出したので、なんとなく和彦もついて行く。向かった先に待っていたのは、綾瀬と伊勢崎だった。
伊勢崎は、乱暴に青年の肩を抱き寄せると、綾瀬と和彦に向けてこう言った。
「俺の息子の、玲だ」
和彦以上に驚いた表情を見せて、綾瀬が呟く。
「もう、こんなに大きくなったんですか……」
「今、高校三年だ。誰に似たんだか、愛想がなくて生意気でな。だが、俺と違って頭がいい。こいつの母親がいい大学を出ていたから、そっちの血だろう」
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