第36話(2)

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「そんなこと気にするような奴じゃねーよ、秋慈は。昔から、嫌というほど俺の無茶を呑み込んできたんだ――」  そう言ったときの龍造の顔に、一瞬鋭い覇気が走る。息子を隣に座らせて話していると、いかにも父親らしい穏やかな雰囲気が漂うのだが、何かの拍子に極道としての地金が覗き見えて、そのたびに和彦はヒヤリとするような感覚を味わう。賢吾と知り合ったばかりの頃を思い出し、奇妙な懐かしさすら覚える。  あの頃は、賢吾という男――というより極道という生き物がまったくわからなくて、会話を交わすことすら、地雷原を歩くような心境だったのだ。  変なことを言って龍造の神経を逆撫でしたくないと、和彦は自分に言い聞かせる。何かあったとき、個人の問題ではなく、組織を巻き込んでしまう恐れがある。 「――……ぼくは、御堂さんと知り合ったのは最近で、こうして祝いの席に出席させていただいたのも、長嶺組の組長の名代としてなんです。勉強不足でお恥ずかしいですが、伊勢崎さんは、御堂さんとのご関係は長いのですか? それに、清道会さんとも」     
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