第36話(2)

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「ご関係、なんて言われると、くすぐったい。まず説明するとしたら、俺と清道会の関係だな。俺が昔いた組の組長が、清道会会長と兄弟盃を交わしていて、その縁で、俺もずいぶん可愛がってもらっていたんだ。玲が生まれる数年前、地元でやんちゃが過ぎて居場所がなかった俺を、客分として預かってくれた恩人でもある。……いろいろと不義理をしちまって、今まで顔を出せなかったが、今日みたいな祝いの席に呼んでくれた。優しい方だというのもあるが、先を見据えて、俺に話したいことがあるのかもしれないな」  龍造の説明を聞きながら、和彦はあることに気づいた。似たような話を、誰かから聞いた覚えがあるのだ。 「会長の家にもよく呼んでもらっていたが、そのとき、高校生だった秋慈と出会った」  こう言ったとき、龍造は昔を懐かしむような目をして、口元に笑みを浮かべた。優しくはない。人を食らう笑みだ。こういう笑みを浮かべる男は、総じて危険な気質を持っている。  寒気を感じた和彦は、反射的に背筋を伸ばす。動揺を押し隠しつつ、和彦は視線をテーブルへと伏せる。  今やっと気づいた。龍造は、御堂を〈オンナ〉にしていた二人目の男だ。  和彦の反応から察したらしく、龍造がいくぶん声を抑えてこう言った。 「――長嶺組の艶聞は、小耳に挟んでいる。いや、総和会の艶聞と言うべきか」  和彦が咄嗟に気にしたのは、まだ高校生の玲の反応だった。父親の長い話は聞き飽きたという様子で、不機嫌そうに唇をへの字に曲げており、今の龍造の言葉に興味をそそられた様子もない。  こんな場に顔を出しておいて、自分の立場を隠し立てするつもりはないが、だからといって積極的に知らせるようなものではない。特に相手が、高校生の場合。     
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