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「違うっ」
和彦はムキになって断言したあと、ぼそぼそと付け加えた。
「それは……、御堂さんに失礼だ」
「ふむ。長年のつき合いがあるというのに、秋慈はどうやら、お前とのほうに友誼を感じているようだ。電話で聞いたが、お前と誰かがいい感じだなんて、一切教えてくれなかったぞ。薄情な奴だと思わないか?」
どこか嘲りも含んだ賢吾の物言いに、和彦はふと、料亭で守光から言われた言葉を思い出す。
『オンナ同士、相性がいいのかもしれんな』
賢吾も同じようなことを言うのだろうかと、和彦は強い眼差しを向ける。それに気づいた賢吾が、こめかみに唇を寄せてきた。
「冗談だ。お前が久しぶりに穏やかな表情をしているから、妬けたんだ」
「……誰に?」
ひそっと和彦は囁きかける。賢吾は短い言葉の意味を即座に理解したらしく、目を細めた。後ろ髪を掴まれたため、和彦はわずかに顔を仰向かせる。
「悪いオンナだ。――秋慈以外の誰が、お前を慰めてくれたんだ」
「慰めじゃない。求めてくれたんだ」
怖い男の両目を、怯みそうになりながらも和彦は見つめ続ける。賢吾は淡々とした口調でこう言った。
「浮気相手を見つけ出して、いろいろと切り落としてやるか」
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