第39話(1)

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 一階に着くと、正面玄関の前に二台の車が停まっており、組員が待機していた。なんだか大事になっているなと、他人事のように思った和彦は、堪え切れずに目を閉じる。賢吾の腕の中にいて、安堵する反面、すべてを打ち明けることが怖くて仕方なかった。  明確に厄介な存在となった自分を賢吾がどう扱うか、最悪の想像をしてしまう。 「やっぱり……、一人でいたい……」 「薬でこんなにグニャグニャになっているのにか?」 「放っておいてくれたら、いつかは切れる」 「それで、一人で泣くのか?」  賢吾の声にわずかな怒気が含まれる。後部座席に乗せられ、崩れそうになる体を支えるようにシートベルトを締められる。その上から改めて毛布をかけられた。  隣に賢吾が乗り込んでから、速やかに車が走り出す。微かな振動と車内の暖かさに、あっという間に深い眠りに引き込まれそうになったが、いつの間にか毛布の下に入り込んできた賢吾の手に、きつく指を掴まれた。痛みが、眠りに逃げ込もうとする和彦の意識を引き戻してくれる。  促されたわけではなかったが、和彦はぽつぽつと、今日起こった出来事を語り始める。  まず最初に、少し前まで父親――俊哉と会っていたと告げたとき、指を掴む賢吾の力がふっと緩んだ。賢吾ほどの男でも動揺したとわかったとき、和彦の目からまた涙が溢れ出す。自分でもどうして泣いているのかとわからなくなってきたが、自制心が利かなくなったことで涙腺が壊れたのだと考えると、妙に納得できた。     
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