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そう結論を出した和彦は、ふっと息を吐き出す。機微に聡い守光と向き合って夕食をとるのは、こういう心理状態のときには負担になる。心の奥底までさらわれているような気になるのだ。
本部に帰宅した和彦は、出迎えてくれた吾川から思いがけないことを聞かされた。
「会長は今晩は、戻られないんですか……?」
「予定より会合が長引いたということで、現地で一泊されることにしたそうです。相手方は、長嶺会長とも旧知の仲で信頼のおける方ですし、何より、日が落ちてからの移動は、やむをえない事情以外では避けたいものです」
「……そうですか」
車中で考えたこともあり、和彦の表情はつい複雑なものになる。
「本日は、佐伯先生に合わせて夕食もご用意させていただきますので、何か要望がございましたら――」
「だったら今晩は、外で食事を済ませたいのですが」
「外で、ですか?」
表情をあまり変えない吾川だが、このときだけは目を丸くする。総和会本部では、できるだけ周囲の人間を困らせないよう心がけている和彦だが、守光が不在だと知り、衝動が抑え切れなくなっていた。気分転換の絶好の機会だと思ったのだ。
「少しお酒も飲みたいと思いまして」
「でしたら、佐伯先生のご希望のものを、運ばせます」
「いえ、ですから、ぼくは外で飲みたいんです……」
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