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『わたしはそこそこ野心は持っていますが、鷹津さんには多少なりと友情めいた感情を抱いているんですよ。さんざんタダ酒を集られましたが、その分の便宜は図ってもらいましたし。そして先生には、命を助けてもらった恩があります。――鷹津さんと先生は、お互いを気にかけていたでしょうから、わたしはささやかなお節介をしただけです。ときどき、先生の様子を知らせるというお節介を。鷹津さんは、聞きたくないとは一度も言いませんでした。ただ黙って聞き入って。そうですか……。あの人やっぱり、先生に会いに行かれたんですね』
危険を冒して、と念を押すように言われ、和彦はゾクリと身を震わせる。長嶺組と総和会から追われている男が繁華街をうろつく危険性は、鷹津自身がよく承知しているだろう。
それでもあえて、鷹津はやってきたのだ。胡散臭い秦からの情報を信じて。
感情が高ぶり、心を揺さぶられるものがあったが、和彦は必死に押し殺す。そうしなければ、鷹津の連絡先を教えてほしいと秦に頼んでしまいそうだった。
ゆっくりと深呼吸をしてから、なんとか平坦な声を作り出す。
「確認したかったことは、それだけだ。……鷹津の連絡先を君が知っていることを、他に誰が――」
『誰も。先生だけです。本当は、先生にも話すつもりはなかったんですよ。鷹津さんに口止められていましたから』
「……昨夜のやり取りは、ヒントのつもりだったのか」
『気づかれなければ、それはそれでよかったんです。知れば、先生は煩悶するでしょう?』
しない、と言い張るのも大人げなく、和彦は唇を引き結ぶ。
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