第40話(4)

6/41
前へ
/1339ページ
次へ
『先生なら大丈夫だと思いますが、わたしと鷹津さんが繋がっていることは他言無用でお願いします。当然、長嶺組長にも。後ろ盾になっていただいている身でわたしも心苦しいですが、ここは一つ、先生も共犯になってください』 「――……考えておく」  和彦としてできる返事は、これが精一杯だった。それでなくても賢吾には、俊哉のことで隠し事をしてしまい、結果としてさんざん迷惑と負担をかけたのだ。このうえ、鷹津を見かけたなどと打ち明けては、大騒ぎになる。  ここで和彦は、無意識のうちに前髪に指を差し込んでいた。  賢吾や長嶺組に負担をかけたくないというのは、気持ちの半分としてある。だが残りの半分を占めているのは、保身なのだ。自分自身と、鷹津のために。 「電話するんじゃなかった」  つい率直な感想を洩らすと、電話越しに微かな物音が聞こえてくる。何かと思えば、秦の抑えた笑い声だった。 『でも、確かめずにはいられない。先生はよくも悪くも、几帳面ですからね』  仮眠室の時計を一瞥して、次の予約までまだ少し時間があることを確かめる。こちらを翻弄してくるような物言いの秦に対して、ささやかな意趣返しをすることにした。 「他人の事情に首を突っ込むのもいいが、自分のことは大丈夫なのか? 昨夜のアレは、秦静馬らしくない醜態だった」 『ええ。そのせいで中嶋に、当分自分の部屋に戻ると言われました』  口に出しては言えないが、自業自得だと思ってしまう。     
/1339ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8782人が本棚に入れています
本棚に追加