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秦から鷹津の連絡先を聞かなかったことに、どうしようもない後悔を感じている自分が、和彦には許せなかった。自分を大事にしてくれている男たちの顔が脳裏をちらつき、胸が痛む。それでも、後悔を消し去ることができない。
和彦はふっと息を吐くと、思い切ってベッドから出る。寒さに体を震わせてから、イスにかけてあったカーディガンを羽織ると、キッチンへと向かった。寝付けないのなら、いっそ開き直って、ゆっくりと温かいものでも飲もうと考えたのだ。
電気をつけたキッチンにふらふらと入り、カップを取り出しはしたものの、ハタと我に返る。さすがに夜、コーヒーは如何なものかと思い、結局、ホットミルクを作ることにした。
さっそく手鍋に牛乳を注いで沸かし始める。その間にカップや蜂蜜を準備していると、廊下から少し荒い足音が聞こえてきた。賢吾の足音ではないことは、すぐにわかった。そうなると、訪問者は一人しかいない。
一体何事かと、訝しみながら和彦がキッチンを出ると、ちょうどダイニングに入ってきた千尋と出くわした。
一目見て、千尋の表情の険しさに気づいた。それに、全身を取り巻く空気がいつになく荒々しい。
「……どうしたんだ、お前。こんな時間に……」
「さっき、オヤジに聞かされたんだ。先生――和彦が、金曜日に……会いに行くんだろ?」
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