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今にも泣き出しそうな顔をして千尋が抱きついてこようとしたが、寸前で動きを止め、急に犬のように鼻を鳴らした。
「……千尋?」
「なんか、変な匂いしない? 焦げ臭いような――」
ハッとした和彦は、千尋を置き去りにしてキッチンに駆け込む。案の定、鍋の中で牛乳が煮え立ってひどいことになっていた。呻き声を洩らして火を止める。
がっくりと肩を落としていると、まだ鼻を鳴らしながら千尋もキッチンに入ってきて、和彦の背後から鍋を覗き込む。
「これ、何しようとしてたの?」
「……眠れないから、ホットミルクを作ってたんだ」
「レンジで温めたら……」
「膜ができるから嫌だ」
「だったら鍋で作るにしても、弱火でゆっくり掻き混ぜ続けないと、結局同じでしょう。いや、焦がした分、もっと悪いのか」
そこまで言って千尋が、ニヤニヤしながら和彦を見た。
「飲みたいなら、俺が作ってあげようか?」
寸前までの緊迫した空気が一変した瞬間だった。和彦が目を丸くしたまま何も言えないでいると、千尋はさっさとダウンジャケットを脱ぎ、シャツの袖を捲って鍋を洗い始める。和彦はおずおずと声をかけた。
「お前、作れるのか?」
「俺がどこでバイトしてたと思ってるんだよ。ホットミルクなんて簡単、簡単。カフェのキッチンだったら、もう少し凝ったものが作れるんだけどね」
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