第40話(4)

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 さきほど、俊哉は何を言った。この部屋で待つ男と和彦の関係を、すべて知っているような口ぶりだった。知っているとすれば、誰かから聞いたことになる。  一体誰なのかと、めまぐるしく思考を動かしている間に、里見が目の前までやってきて、肩に手がかかった。 「会いたかった、君にっ……」  切実な口調で言われて、和彦はようやく理解した。  今年の二月に再会したとき、里見は育ちのいい青年のような屈託ない笑顔を浮かべていた。昔と同じように。  その笑顔が今は影を潜め、こんなにも苦しげな表情を浮かべている理由が、残念ながら和彦はたった一つしか思い浮かばなかった。
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