8528人が本棚に入れています
本棚に追加
/1329ページ
第36話(2)
御堂の実家に幽霊など出ないとはっきりしたことは、ささやかながら和彦を安堵させた。心の底から存在を信じているわけではないが、得体の知れない人物が夜、建物の中をうろついていたというのは、気持ちがいいものではないのだ。
「――……つまり、昨夜、ぼくを助けてくれたのは、やっぱり君だったのか」
和彦の言葉に、伊勢崎玲は微妙な表情となる。
「助けた、というのは大げさです。ただ部屋に連れて行って、水を飲ませただけですから」
「でも、君が見つけてくれなかったら、ぼくは廊下で朝まで寝ていたことになる」
ここで短く笑い声を洩らしたのは、玲の父親である伊勢崎龍造だ。さきほど名刺をもらったが、そこには、北辰連合会顧問という肩書きとともに、伊勢崎組組長とも記してあった。
これまでさまざまな組織の名を目にしてきた和彦だが、北辰連合会と伊勢崎組という組織に関する知識は、まったくなかった。おそらく総和会と直接関わりがある組織ではない。
「秋慈には心底迷惑そうな顔をされたが、お前をあの家に泊まらせておいてよかったな。立派な人助けができたじゃねーか、玲」
最初のコメントを投稿しよう!