第37話(2)

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第37話(2)

 隣に座っている千尋が、大きなため息をつく。ウィンドーのほうに顔を向けていた和彦は、つい顔をしかめていた。  車に乗り込んでからずっとこの調子で、これが一体何度目のため息なのか、両手の指を使っても足りなくなったところで、和彦は数えるのをやめてしまった。  一体何が気に食わないのか――と聞くまでもない。わかっているからこそ和彦は、さきほどから千尋のため息に対して、聞こえないふりを続けていた。しかし、千尋も負けていない。こっちを見ろと言わんばかりに、もう一度大きなため息をつく。  二人のあからさまな意地の張り合いに、車の前列に座っている組員たちが、さきほどから目に見えてハラハラしている。  これ以上、車中の空気を微妙にしては悪いと、ささやかに大人としての配慮が働いた結果、和彦は横目でじろりと千尋を睨みつけ、片手を伸ばす。日に焼けた引き締まった頬を抓り上げた。 「いででっ」 「お前はさっきからうるさい。言いたいことがあるなら、言葉にしろ」  和彦が注意をすると、途端に千尋が、恨みがましさたっぷりの視線を向けてきた。 「言っていいの?」     
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