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第39話(1)
和彦はパジャマ姿のまま賢吾に抱き上げられた。普段であれば怖くて声を上げて暴れるところだが、安定剤で意識が朦朧としているため反応は鈍い。
「……こんなことしなくても、ぼくは歩ける。……重いだろ」
「かまわねーから、もっと太れ。――晩メシは食ったのか?」
少し、と吐息を洩らすように答えると、ふっと意識が遠のきかける。弛緩しきった体は抱えにくいはずだろうが、賢吾はものともせず寝室を出る。廊下には組員たちの姿があり、歩きながら賢吾は抑えた声で何か指示を出した。
玄関を出た途端、薄着の体に冷たい空気がまとわりつく。軽く身を震わせると、賢吾の胸に強く抱き寄せられた。
「少し我慢しろ。すぐに車に乗せてやる」
普段は余裕たっぷりのバリトンが、いつになく切迫感のようなものを滲ませている。そう感じるのは、自分の願望の表れなのかもしれないと和彦は考える。
先にエレベーターホールに向かった組員の一人が、エレベーターの扉を手で押さえて待っている。和彦を抱えた賢吾が乗り込むと、あとからやってきた組員も慌ただしく続く。手には毛布を抱えており、そっと和彦の体にかけてくれた。
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