第34話(3)

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第34話(3)

 八月最後の日だった。  和彦はウィンドーを覗き込むようにして、外の様子をうかがう。クリニックからの帰宅途中なのだが、日が暮れてから急に天候が崩れ、とうとうどしゃ降りの雨となっている。 『――雨すごいね』  電話の相手である千尋の言葉に、見えるはずもないのに和彦は頷く。 「ああ。クリニックを閉める頃に降り出したから、よかったといえばよかったが……。お前は、本宅にいるのか?」 『珍しく、午後からずっとね。先生が仕事休みだったら、どこかに一緒に出かけたかったのにさ』 「この暑い中、どこに出かけるつもりだったんだ」 『いろいろあるよ。まずは、映画なんてどう? あと、秋物も並んでるから、服を買いに行くとかさ』  ここのところ、千尋と気楽な気分で出かける機会もなかったので、素直にいいなと思ってしまう。 「お前の予定が合うなら、クリニックが休みの日に出かけるか。ぼくも、買いたいものがあるし」 『予定なんて、合わせるよっ。じゃあ、来週の日曜は?』 「ぼくのほうは、今は予定が入ってないから大丈夫」 『だったら俺、じいちゃんに、その日は絶対に先生に予定を入れないように言っておくから』     
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