第41話(1)

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第41話(1)

 襖を閉めた和彦は、涙が出そうになるのを堪えながら里見に詰め寄った。 「どうして、里見さんがここにっ?」  感情の高ぶりのままに声を荒らげたが、すぐに、襖一枚を隔てた俊哉の耳を気にする。  突然の里見との再会に動揺する和彦とは対照的に、里見は落ち着き払っていた。こういう状況になることは織り込み済みだったのだろう。すべてを俊哉に打ち明けて、今晩のことも打ち合わせをしていたのだ。  南郷の迎えの件も含めて、和彦だけが何も知らされていなかった。  ふうっと深く息を吐き出した途端、足元が軽くふらつく。当然のように里見の手が肩にかかり、和彦の体を支えた。このとき互いの距離の近さを意識し、反射的に後ずさろうとしたが、里見にぐっと肩を掴まれた。  包容力と知性を兼ね備えた、年齢を重ねた分だけ深みが増した容貌は、抗い難いほどに和彦の視線を奪ってしまう。一度目が合えば、もう逸らせなかった。記憶にある優しげな眼差しは、今は燃えるような熱情を湛えている。  この(ひと)は、こんな目をする人だっただろうかと違和感を覚え、どうしてだろうかと疑問に感じたが、それも一瞬だ。     
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