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昼下がり、街の中心地にある階段をのぼる。
前を歩くサキの背中が見るからに嬉しそう。一つに結んだ金髪が跳ねるように揺れる。
「いやあ、やっぱり美味しいわ」
先程買ったばかりのホットドッグをほおばりながら、サキが言う。
「見つかったら怒られるよ」
登下校中の買い食いは禁止だ。けれどサキは悪びれもせずに言う。
「いいじゃない。最後なんだし」
そう。今日が彼女の最後の登校日だった。今は下校中。学校生活最後だからと、ずっと憧れていたという学校帰りの買い食いを彼女はしている。
「なあ」
ホットドッグを食べながら、階段を上るサキの背中に呼びかける。
「行くなよ」
彼女はすぐに答えない。しばらく黙りこんだまま歩き、そしてホットドッグの最後の一口を口に放り込むと、手にした包み紙を無造作に小さく丸め、道の先にあったゴミ箱めがけて投げた。
丸められた包み紙は吸い込まれるように、ゴミ箱に入った。当然だ。彼女は運動神経が恐ろしく良い。
彼女はくるりとこちらを振り返る。
「行くに決まっているでしょう。国からの指令なんだから。マナト、あんただってわかっているでしょう」
彼女は明日、戦場へと飛び立つ。彼女は非常に優秀なパイロットだ。その腕を買われ、本来なら学校を卒業した者が戦争に行くところを特例で、まだ学生の彼女が選ばれた。
「それに私は嬉しいのよ。まだ学生の私が呼ばれるなんて。私のパイロットの腕を国が認めたってことでしょう」
そうだ。確かに彼女は認められているのだろう。しかし、俺は思う。
学生であるサキを呼ばなければならないほど、実は戦況は悪いのではないか。
国内で手に入る情報では戦況は我が国が優勢だと聞く。けれど本当なのか、俺は疑っている。
「大丈夫よ。マナト」
サキが朗らかに笑う。
「ちゃんと帰ってくるって。あんた、私がとーっても優秀だってこと知ってるでしょう」
そう。彼女は優秀だ。
俺が彼女の代わりに戦場に行けたらと何度も思った。けれど、情けないことに俺ではサキの代わりは務まらない。俺は勉強も、運動神経もパイロットとしての腕もサキには敵わない。
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