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優秀なパイロットになりたい。その思いから、俺はせめて見た目だけでもと、常日頃からゴーグルを身に着けている。けれど、俺は決して彼女に近づけなかった。
彼女は明日、俺を置いて、飛び立ってしまう。
「・・・・・・」
それでも行くなと俺は言いたかった。
黙っている俺を見て、サキは仕方ないなとでもいうように首をかしげると、俺に近づいて階段を下りてきた。そして俺の目の前に立つと、いきなり俺を頭につけているゴーグルに手を伸ばした。
そしてゴーグルを引っ張って、無理やり俺の目につけた。
「えっちょっと何?」
驚く俺にサキは黙ったまま、俺の目につけたゴーグルの前に手を置いて、目隠しをした。
「いい?マナト。私はね、毎日学校に通って、毎日この道をあんたと一緒に歩いているこの時間が大好きだったの」
目隠しをされているため、何も見えない。真っ暗な視界を閉ざされた中で俺はサキの声を聞いていた。
「私は、この国を、この時間を守りたいの」
明るく、なんでもないことのように彼女は話す。けれど、その話し方が余計に俺をせつない気持ちにさせる。頼むから戦争に行くことを、そんな当たり前のように言わないでくれ。
行きたくないと、彼女が泣いてくれたら、俺だって、彼女を守ろうと動くことができるのに。
彼女がいきなり俺の体をくるりと反転させた。
急に視界をふさがれていた手が外されて、ゴーグルをつけた俺の目に飛び込んできたのは、階段から見下ろす慣れ親しんだ街の景色だった。
昼下がりの明るい街並み。ゆっくりと穏やかな時間が流れ、平和な人の生活の音が満ちている。
「大好きなこの国と、マナトを守るよ」
耳元でサキがそう言うと、俺が振り返る間もなく、勢いよく背中が押された。
「うわっ」
いきなり背中を押され、しかも階段の途中だったため、俺は大きくよろけて数段踏み外した。
「サキ!お前、危ないじゃないか!」
怒ってそう叫び、階段の上を振り返ったときには、もうその場にサキの姿はなかった。
サキは翌日、戦場へ飛び立ったと、人づてに俺は聞いた。
それから俺は戦争に行った彼女が無事なのか、必死に情報を集めた。けれど最初は彼女の噂も聞いたが、次第に彼女の情報が手に入らなくなった。
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