最終話 僕に救いをくれる人たち

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最終話 僕に救いをくれる人たち

 目の前で光が散って、ざあと風が吹き抜ける。途端、充満していたカレーの味が一掃され、喉の奥に押しやられる。それがつんと気管を刺激した反動で小さく咳が出て、記憶の底から我に返ったことを自覚した。 「広?」  呼び掛けに顔を上げると、竹本たちが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。 「どうした? どっか痛いのか?」  その言葉に思わず目元を拭う。見ると指先が濡れていて、僕は泣いていたのだと気付かされた。え? なんで? 戸惑い、ぽつぽつとつぶやいた声は涙に滲んでいて、かすかにふるえる。なんで、なんて馬鹿らしい。わかってるだろ。僕はまた、成し遂げられなかった。ぐいぐいと乱暴に目元をこすると、皮膚がひきつって顔の傷が痛い。すると、次々に「大丈夫?」と声が掛かった。顔を上げると、心配そうに覗き込んでくる皆の顔がある。僕のために心配してくれる人がいること、彼らがそばにいてくれることがなにより恵まれているし、救われる。それだけで僕は、過去に沈まず生きていける。  ふと、一番離れた位置にいた彼と目が合う。不安げに見つめるその瞳には、ちゃんと光が射していた。それは、僕が助けた彼がちゃんとそこにいて、生きているということを証明していた。大丈夫。生きてる。言い聞かせるようにふぅと息をついて、ぎこちないながらも笑顔を作る。
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