第3話 僕とカレー《真実編》

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 動悸はとうに激しさを増していて、うまく呼吸ができなかった。頭がくらくらする。それでも容赦なく攻撃は続く。顔を殴りそして、腹をおもいきり蹴られた。息が止まり、地面に膝をつく。吐息とともに、胸の奥から吐き気が這いあがってくる。  嫌だ。  口の中からドロッとした茶色い固まりが溢れ出してきた。カレー、だった。  嫌だ、嫌だ。  気持ちとは反対に溢れ出してくる。無力だった感覚が蘇ってくる。  僕は何もできない。彼を救えない。  涙が一粒、吐瀉物の上に落ちた。その一滴は、茶色い海を一瞬だけ黄金色に変えた。違う。今度こそ、救うんだ!  富田、助けなきゃ。  無理やり体を立ち上がらせ、倉庫の壁に縋りついた。またノイズが入る。景色は暗闇と夕暮れのオレンジを交互に見せる。いつの間にかかなりの時間が経ってしまっていた。急がないと。逸る気持ちに足がついていかず、何度も転んだ。そのたびにノイズは強くなり、過去の恐怖が余計に力を入らなくさせた。  やっとのことで渡り廊下にたどり着くと、柱や柵を伝って、校舎の中に入った。もうすぐだ。安心したからか目眩がひどくなる。廊下の壁に縋りつき、なんとか自分を保って前に進む。途端、景色がぐるぐると回りだし、黒とオレンジのマーブルを作り出した。  ダメだ。富田を助けないと。保健室にたどり着かないと。  そう思った瞬間、回る視界の中に保健室の文字が見えた。  あった。  衝動的に体が動き、流動する視界ともとに体がその場にくずおれる。だが、視界の上の方で保健室という文字が湾曲しながら存在を露わにしていた。その文字に手を伸ばし、掠れた声でつぶやく。 「富、田……」  次の瞬間、ゴッと鈍い音とともに意識が消失した。
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