ビタースウィート

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 彼との付き合いは二年だ。もちろん、恋人同士の付き合いではなく、同じサークルに所属する仲間としての付き合い。サークル名は『星見会』その名の通り、星を見に行くサークルである。そこで彼に出会った。ただ、星を眺めるのが好きな私なんかとは違い、彼の星に対する情熱は海よりも深く、空の広さ、いや、宇宙にも負けないと思われた。物静かな癖に、語り出すと熱い、典型的なマニア気質。意外と律儀で、ちょっと偏屈で、不器用。そんな性格も加わり、彼がサークル以外の友達と接する姿すら見たことがなかったのだ。  そんな彼がチョコをもらった。衝撃を受けた。雷にうたれるとか、そういう衝撃ではなかったと思う。何と喩えればいいのだろう。夜空の流れ星に願い事をしていたら、なんと自分の元に降ってきた隕石だったような。 だから「嘘だ」と思った。あり得ない。  茶色の紙袋はかの有名な高級ショコラ店。かなり奮発したのだろう大きさ。おそらく本命なのだろう。私を含めた全ての人はそう思ったはずだ。それなのに、彼は気にも留めずにそのチョコレートの袋を部員集まる場所へと持ってきたのだ。  部室に現れた何人かがそれを見つけ、茶化しに行くたび、私は聞き耳を立てている自分を自重しようと努力した。  宮木、それ告られたの?  本当は真っ先に聞きたかった。そわそわする。そして、心臓が胸を打つ。聞きたくない。 「あのね。みんなにチョコ持ってきたんだ」 私はあの時、嘘をついた。ただ、みんなと自分の視線を変えたかったのだ。ちょうど人数よりも多い七つ。もともと意味なんてないチョコレートだったんだから。ただ、あげたくなっただけで。からかいたくなっただけで。渡そうか迷っていたものだし。 「一個ずつね、私も食べたいから、ちゃんと残しておいてね」     
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