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綺麗にお洒落したチョコが摘ままれる度に金色のプラケースに一つずつ穴を開けていく。彼も一つ摘まむ。何味を取ったのだろう。無性に気になった。でも、視線の先にあるのは慌てて破った包装紙を握る自分の手だけ。そして、破かれた包装紙を伸ばし始める。気にしている自分をひた隠しにしたくて。包装紙をたたんでいる私の元にそれが戻って来た頃には、随分と重みを失って、穴だらけになってしまっていた。
私が摘まんだ残り物はエスプレッソクリームが中に入ったシェルチョコレート。口の中に僅かな苦みが広がった。私が口の中に放り込むのを見届けたみんなが、「ありがとうございました」と運動部のようにしてお礼をしたものだから、その苦味はすぐにチョコの甘味に侵された。だから、私は笑顔でそのお礼に応えた。
「いーえ。お返しは三倍返しで、よろしく」
「えーっ、むりーっ」
笑い声とにぎやかな声がただ部室に広がる。じんわりと広がったものは、それに埋め尽くされた。痛みも苦味もあの時振り切った。私なら大丈夫。みんなそう言うし、私もそう思うようにしている。それなのに、一人になるとあの苦味が口に広がり、涙が零れた。最初はなんで泣いているのかが分からなかった。
ただ、胸の奥に広がる薄汚れたものが嫌で仕方なかった。
それ以降なんだか、サークルに顔を出しにくくなってしまった。別に泣き顔を見られたわけでもないし、誰かを傷付けたわけでもないのに。サークルの呼び出しも適当な嘘を吐いて足を遠のかせていた。だから、私の二月の星空はあの日から動いていない。
『同じゼミの子にチョコレートをもらったんだけど、一緒に見繕ってくれない?』
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