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星野君には困ったところがいくつもあります。ひとつは、どうやら彼は私が彼に恋心を抱いていると勘違いしているらしいことです。彼がお店で働き始めた時に、私が彼の指導役をしていたことが勘違いの原因かもしれません。彼はレストランの厨房で働くのは初めてだったので、私が指導役になって包丁の使い方からサラマンダーの操作まで、調理器具について一連の講習を行いました。料理はあまりしたことがなかったという彼の指導は業務時間内にはとても終わりませんでした。仕方がないのでバイト代無しで居残りして補修みたいなことをしてあげたのです。新人のバイト仲間を応援してあげるくらいの気持ちでした。数日の指導で彼は調理器具を一通り使いこなせるところまで上達しました。
星野君は時間外の指導を私が彼に好意を持ったためと思ってしまったみたいです。私と彼の勤務時間は少しずれているのですが、星野君は出勤時と退勤前にわざわざ私のいる部署までやってきて、私と周りの人にあいさつをし、二言三言会話をしていきます。スタッフミーティングの時には、気が付くと私の近くの場所、すぐ隣ではなく二三人置いたところに陣取っています。きっと、こまめにそばによったり声をかけたりすることで私が喜ぶと思っているのでしょう。もしかすると、私から告白できる機会をさりげなく作っているつもりかもしれません。
でも、私が彼に好意を持っているなんてことは、決してありません。必要もないのにそばに寄って来られ、ただうろうろされても鬱陶しいだけです。彼はイケメンかもしれませんが、人の顔をぼおーっと眺めていたら仕事になりません。
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