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それから1週間程が過ぎた。保管期限切れの遺失物を引き取りに、リサイクル業者が来た。金銭的価値の有無に関わらず、引き渡す決まりなのだ。
「巾着袋とポイントカード、それと壺ですね」
リサイクル業者の青年は、休憩室のテーブルの上で、処分品を確認しながら書類に書き込んでいく。
「軽いですね。中に何か入ってますか?」
青年は、壺を持ち上げて揺すってみたが、何も音はしない。
「いや、空です」
今朝、引き渡しのために、段ボールの底から取り出した壺は、すっかり軽くなっていた。
憎しみを吐露したあの夜は、間違いなく重かったのに。
俺は、確信していた。
俺達は全員、利用されたのだ。夜毎、引き出された悪意が、十分力を発揮出来るくらい重くなるまで。
歪んだ願望を叶えた振りをして、壺は目的を果たし――なに食わぬ顔をして、再び軽くなったに違いない。
「蓋は……開きませんねぇ」
「時々、開かなくなるんです」
背中に冷や汗を感じながら、淡々と対応する。
「じゃ、ここにサインを――はい、毎度どうもでーす」
引き取り用の段ボールに入れると、青年は業者のトラックの荷台に積んで走り去った。ようやく、俺は安堵した。
けれども、安堵できたのは一時のことだった。
その夜――あのリサイクル業者のトラックが、走行中に炎上して、信号機に激突したと報じられた。運転手の青年は怪我だけで済んだものの、トラックは荷台を中心に激しく燃え、跡形もなかったそうだ。
あの壺は、どうなったのだろう。焼失したのだろうか。それとも――。
その行方は、杳として知れない。
【了】
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